−避妊手術の利点と問題点−

当院で行っている「避妊手術」は犬・猫ともに「子宮・卵巣摘出術」になります。

全身麻酔をかけた上での開腹手術ですので、リスクと天秤にかけた上でゆっくり検討し、判断して下さい。


○ 病気が少なくなり、平均寿命が長くなります。

○ 子宮蓄膿症の予防は100%です(子宮がないので)。
子宮蓄膿症は子宮に細菌が感染して起きる病気で、気付くのが遅れると命に関わります。ところが婦人科系の病気は早期発見が難しく、腹膜炎併発など重篤になってから受診されるケースが多くあります。

○ 乳腺腫瘍の発生率低下 *1〜2歳に限る
 犬では乳腺腫瘍発生率が
 初回発情前の避妊 0.05%
 2回目発情前 8%
 3回目発情前 26%
 その後は予防効果低下〜消失

 猫では避妊していない子は避妊している子に比べて7倍のリスク

○ 犬にとっての「ストレス(?)」と人間にとっての「飼いやすさ」
犬だと生理(発情出血)が年に1〜2回あります。生理中は出血のケアが必要なだけではなく、周囲の雄犬にとっては悶々としたストレスを与えてしまいます(近所の雄犬の具合が悪くなる例もあります)。

また、その後、程度の差はありますが想像妊娠の期間があります。ぬいぐるみを大事に抱えて子育てモードに入るのがこの期間で、食欲が落ち、乳腺が張って泌乳することもあります。子宮蓄膿症などの重大な病気が起こりやすい時期でもあります。

○ 猫にとっての「ストレス(?)」と人間にとっての「飼いやすさ」
猫の発情は個体差が大きく、単にご機嫌になる場合はそれほどストレスを感じないかもしれません。いつもはおとなしい子が、普段とは違う大声を上げて家中を走り回ったり、勢いに任せて家を飛び出してしまったりすることもあります。

猫は「交尾排卵」といって、交配による刺激で排卵がおきますので、外に出てしまうとほぼ確実に妊娠します。また、そのタイミングで猫エイズなどの伝染病をもらってしまうこともあります。

××××××××× 以下マイナス要因です ×××××××××

● 健康体にメスを入れることに対する抵抗感
これは正確には「リスク」ではありませんが、悩むべき点です。人間でも婦人科系の病気は珍しくありません。それでも予め子宮卵巣を取ってしまおう、と考える人は少ないでしょう。病気だから治療するのが本筋であり、それは否定できません。

しかし、犬・猫を考えた場合、自分(人間)の体でも発見が難しい婦人科系のトラブルを早期に気付いてあげられるか?高齢になって実際病気になった時に後悔せずに割り切れるか?という点で決断して下さい。

● 全身麻酔のリスク (健康であれば稀/ご高齢、持病などでリスク上昇)
健康な子(普通の検査で健康に見える子)に対して麻酔薬を使った場合、1万頭に1頭程度、麻酔薬に対するアレルギーや特異体質によってトラブルが起こると言われています。できる限りリスクを下げるために麻酔のモニター(心電図、呼吸、酸素飽和度など)を行っていますが、99.9%は100%とは違います。

ただし、もし年齢が上がって卵巣・子宮疾患になれば、ハイリスクな状態で麻酔をかけなければならないことになります。

● 肥満(多い!)
太りやすくなります。予めダイエット用のフードなどに切り替えておくのがオススメです。

● 術後の尿漏れ(まれなリスク)
犬の避妊手術の後、稀にホルモン性と疑われる尿漏れがおこることが報告されています。程度により、ホルモン剤や尿道の薬などで治療が必要なことがあります。

● 縫合糸に対する過敏症(まれなリスク)
特にミニチュアダックスに見られますが、止血などに用いた糸に対するアレルギー反応を起こすことがあります。以前は一般的によく使われていた絹糸(当院では使っておりません)で多発したようですが、どの成分の糸でも起こりうるものです。

多くはステロイドなど一過性の免疫抑制で治りますが、一部には糸を取り除いてもアレルギー反応だけ残ってしまうことも報告されており、難治性になることもあります。

● 再発情(ごく稀)
まれなケースではありますが、卵巣の細胞が正常位置と離れたところにも分布する例があり、通常の避妊手術では取り残すことになってしまいますので、数年を経て発情が起こることがあるようです。発情と診断できたら再手術が必要かもしれません(個人的には経験がありません)。